恋みくじの始まりは、おみくじの歴史の中にある
「恋みくじっていつからあるの?」と聞かれると、すっと答えられる人はあまりいないと思います。恋愛のことだけを占うおみくじを、どの神社がいつ最初に置いたのかは、はっきりした記録が残っていないようです。
それでも、たどれる道筋はあります。くじで物事を決める習わしが古くからあり、江戸時代におみくじが参拝の楽しみとして広まりました。神社のおみくじには、もともと恋や結婚にかかわる項目が入っています。そこから恋愛だけを取り出したおみくじが目立つようになったのは、縁結びの神社めぐりが話題になったここ数十年のことと考えるのが自然です。
順番に見ていくと、神社で何気なく引いている一枚にも、長い時間が重なっていることがわかります。
おみくじのもとは、平安時代のお坊さんのくじ
おみくじの始まりとしてよく名前が挙がるのが、平安時代に比叡山で活躍した僧、良源(りょうげん)です。お正月三日に亡くなったことから「元三大師(がんざんだいし)」とも呼ばれ、「おみくじの祖」として知られています。
元三大師のおみくじは、1番から100番まである漢詩のくじで、引いた番号の詩から吉凶を読みます。今も「元三大師みくじ」を置いているお寺があり、漢詩が書かれたおみくじは、その多くがこの流れをくむものです。(良源本人が今の形のおみくじを作ったのかどうかは、はっきりしない部分もあります)
くじそのものは、さらに昔から使われてきました。神さまの考えを聞く方法として、大事なことを決めるときにくじを引くことがあったのです。室町時代には、将軍の跡継ぎがくじ引きで選ばれたこともあります。今のように一人ひとりが自分の運勢を見るものになるまでには、長い時間がかかっています。
江戸時代に、参拝の楽しみになった
おみくじが庶民の身近なものになったのは、江戸時代とされています。お伊勢参りのように、お参りと旅を兼ねた寺社めぐりが楽しまれるようになり、参拝のついでにおみくじを引くことも広まっていきました。
神社やお寺のおみくじには、運勢のほかに、人との縁や結婚について書かれた項目が入っていることがよくあります。恋の行方を占うことは、恋みくじという名前ができるずっと前から、おみくじの中にあったと言えそうです。
ただ、普通のおみくじでは、恋のことは数ある項目のひとつにすぎません。仕事や健康、旅のことと並んで、短く一言書かれているだけのことが多いです。恋のことだけを一枚かけて書いたおみくじが目立つようになるのは、もっと後になってからです。
今のおみくじの多くを作っている神社
神社のおみくじの話になると、よく名前が出るのが山口県周南市の二所山田神社にある「女子道社(じょしどうしゃ)」です。明治時代に、この神社の宮司が女性の自立を支える活動を始め、その資金づくりとしておみくじを作るようになったのが始まりと伝えられています。
今も全国の多くの神社にここのおみくじが届けられていて、旅先で引いたおみくじと地元の神社のおみくじの形が似ているのは、そのためかもしれません。(引いたおみくじの隅に「女子道社」と小さく印刷されていることがあるので、次に引いたときに探してみてください)
和歌と恋は、昔から近いところにあった
神社のおみくじには、上の方に和歌が一首書かれているものがあります。運勢の文字に目が行きがちですが、この和歌を読んでから本文を読むと、印象が変わることもあります。
和歌は、昔から恋の気持ちを伝えるために詠まれてきました。百人一首でも、100首のうち43首が恋の歌です。会えない人を思う歌や、気持ちを打ち明けられずにいる歌を読むと、千年近く前の人も今と同じことで悩んでいたのがわかります。おみくじの和歌を、自分の恋に重ねて読んできた人もいたはずです。
和歌の意味がすぐにわからなくても、気になる言葉をひとつ拾うだけで十分です。「待つ」「月」「春」のような言葉が目に入ったら、今の自分の恋のどこに当てはまりそうかを考えてみると、運勢の文字だけを見るより長く心に残ります。
引いたおみくじを結ぶ習わし
神社で引いたおみくじを、境内の木やおみくじ掛けに結んで帰る人を見かけます。結ぶことを「縁を結ぶ」に重ねて、良い結果なら願いがかなうように、良くない結果なら神さまに預けて帰る、という意味で受け取られています。
ただ、持ち帰ってはいけない、という決まりがあるわけではありません。大吉や心に残った言葉が書かれたおみくじは、手帳や財布に入れて、ときどき読み返す人もいます。どちらにするかは、その日の気持ちで選んでかまいません。(木の枝に結ぶと木を傷めることがあるので、神社によっては決まった場所に結ぶようお願いしています)
縁結びの神社と恋みくじ
「恋みくじ」という名前が広く知られるようになったのは、縁結びで知られる神社が、恋愛のことに絞ったおみくじを置くようになってからと見てよさそうです。
よく名前が挙がるのが、東京・飯田橋の東京大神宮です。「東京のお伊勢さま」とも呼ばれ、明治時代に伊勢神宮を遠くから拝むための場所として建てられました。神前結婚式を広めた神社としても知られ、今は縁結びの神社として若い人がよく訪れます。ここの恋みくじを目当てに参拝する人もいます。
ほかにも、紙を水に浮かべると文字が浮かび上がる京都・貴船神社の「水占みくじ」や、鯛の形をした埼玉・川越氷川神社のおみくじなど、その神社ならではのおみくじが各地にあります。水占みくじは恋愛専用ではありませんが、縁結びの神社として知られることもあって、恋の願いを込めて引く人もいます。旅先の神社でしか引けないおみくじは、引くこと自体が思い出になります。
縁結びで知られる神社は、恋みくじが当たると評判の神社10選で地域ごとに紹介しています。
スマホで毎日引ける時代へ
スマホが当たり前になってからは、引いたおみくじを写真に撮ってSNSに載せたり、友だちと見せ合ったりする楽しみ方も増えました。神社で一人で読んで終わりだったおみくじが、話題のきっかけにもなっています。
神社に行かなくても引けるオンラインの恋みくじも、その流れの中にあります。恋みくじ参道の恋みくじは、1日3回まで無料で、登録しなくても引けます。神社の恋みくじと違うのは、恋の状況(片想い・両想い・複雑愛・募集中・休止中)と性別によって、札の中身が変わるところです。同じ大吉でも、片想いの人には「想いが届く日」、休止中の人には「恋の再スタート」のように、今の恋に合った言葉が出ます。生年月日から12日ごとの調子の波を出して、日によって結果の出やすさが少し変わる仕組みも入れています。
神社のおみくじと、札の項目が違う
神社のおみくじには、人を待つことや結婚話、願いごとの行方といった項目があります。恋みくじ参道の恋みくじには、こうした項目はありません。札に出るのは、運勢・総評・導き・縁地・禁忌・開運物・開運人・開運食です。
神社のおみくじで出会いや結婚の項目を読んでいた人には、恋が動きやすい場所を伝える縁地や、その日の動き方を伝える導きが近い項目です。運勢は大吉・吉・中吉・小吉・末吉・凶の6つで、大凶はありません。
引いた結果が残る
神社で引いたおみくじは、持ち帰っても、いつのまにかどこかへいってしまいがちです。スマホの恋みくじは、引いた結果が「恋みくじ記録」に残るので、先週どんな札が出ていたかを見返せます。Google連携をしておけば、機種変更のあとも記録を引き継げます。(紙のおみくじには手に取って読む良さがあるので、どちらが上ということはありません)
恋愛のおみくじだけが、ひとつのジャンルになった理由
おみくじには、仕事や勉強、健康のことも書かれています。それなのに、恋愛だけが「恋みくじ」として独立したのはなぜでしょうか。はっきりした答えがあるわけではありませんが、二つの理由が考えられます。
ひとつは、恋のことは気持ちが大きく揺れるからです。仕事運が小吉でも「そうなんだ」で済みますが、恋の運勢が凶だと、その日一日気になってしまいます。LINEの返事が来ない夜や、席替えで好きな人と離れてしまった日のように、誰かに一言かけてほしい場面が多いテーマなのだと思います。
もうひとつは、恋には決まったやり方がないことです。勉強なら教科書がありますが、好きな人にどう話しかけるかは、誰も教えてくれません。だからこそ、今日の動き方の手がかりになる言葉が欲しくなるのでしょう。
次に引くときに、少しだけ思い出してみる
くじで神さまの考えを聞いていた時代から、参拝の楽しみになった江戸時代、縁結びの神社の恋みくじ、そしてスマホの恋みくじまで、おみくじは暮らしに合わせて形を変えてきました。恋のことを誰かに相談したい気持ちは、その間ずっと変わっていないように思います。
神社で引く一枚も、スマホで引く一枚も、読んだあとにどう動くかを考えるきっかけになるところは同じです。次に恋みくじを引くときは、和歌を詠んでいた昔の人のことを、少しだけ思い出してみてください。